先週の土曜、ひょんなことから梶田先生の記念講演会に参加することができた。
これまでにも、物理で著名な先生の話を聴いたことはあるが、実際にノーベル賞を受賞した先生の生の講演を聴くのは、初めてではなかろうかと思う。学生時代は物理の研究をしたいと思っていたが、結局はそうした世界には入れなかったぼくにとって、こんな貴重な講演を聴けたことに感謝したい。
土曜の昼に、いつものごとくイオンで買い物する前に、自然食品の店に立ち寄った。通り道に東海文化センターがあるが、この日はなぜか駐車場が車でごった返しており、何かイベントがあるらしかった。入り口には「梶田先生記念講演会」の看板が出されていたので、ぼくは「まさかあの梶田先生?」と好奇心をそそられ、会場に立ち寄ってみた。
文化センターのロビー前に行くと、間違いなくニュートリノでノーベル物理学賞を受賞した梶田隆章先生の講演会ではないか。もともと会場に行くつもりはなかったのだが、もしかして飛び込みで聴講できるのかと、整理係の方に尋ねてみた。予約が必要だが、キャンセル待ちが出るかもしれないと言われて、数名の方がキャンセル待ちをしておられたので、一度はやめようかとも思ったが、とりあえず開演まで待ってみることにした。
保証はできないということだったが、なんと! 「席に余裕があるので入れます」と言われ、住所と名前を書いて参加者の名札を受け取り、入場することができた。
なんという幸運だろう!!
まさかふらっと立ち寄ったこの記念講演会に、参加できるとは思わなかった。
この講演会は東海村のJ-PARCセンターが主催のようで、こんな近くで物理のお話が聞けるとは思いもよらなかったが、考えてみれば、原子力関係では有名で高エネルギー物理も当然、盛んに研究されていることに気づいた。J-PARCで作ったニュートリノをカミオカンデで観測するという話も確か聞いていたし...。
梶田先生は本命だが、この日の講演ではまず、Kavli IPMU機構長の村山先生が前座を務める。前座という言葉は少々語弊があるが、梶田先生の講演に先立って、ニュートリノに関する基本的なお話、特にわれわれと宇宙の関係について、わかりやすく楽しくお話をされた。聴衆は、小学生くらいから年配の方まで幅広い層のようで、目立ったのは中学、高校生といった学校関係で聴きに来ている方々だろうか。
村山先生は、朝日カルチャーセンターで宇宙についての講座を受けたことがあるが、この日も講座と変わらぬ面白い話の運び方で、非常に楽しかった。内容はこれまでに結構本で読んだり、カルチャーセンターの講座で聴いているのでわかっている内容ではあったが、改めてニュートリノが宇宙に物質が存在することの鍵を握っていると認識できたように思う。反物質の話なども村山先生が話されると非常に面白い物語のように感じる。
そして、真打の梶田先生登場。先生は、最初どんな方々が聴きに来るのか聞いていなかったということで、どうも小学生などの小さな子らは想定していなかったようである。学会で発表するような英語のスライドも混ざっていて、「ごめんなさい」という姿が印象的だった。
内容は、先生がニュートリノ振動を発見するまでの研究の歩みとでもいう印象を受けた。カミオカンデはぼくが学生の時、ちょうど陽子崩壊の実験でなかなか盛り上がっていたと思うが、梶田先生も最初はニュートリノというより、素粒子の大統一理論を実験的に証明する陽子崩壊を見つけたい思いから素粒子実験物理に入られたそうだ。
3K背景放射ではないが、こうした最初の目的とは異なるむしろ実験には邪魔になるノイズに関して調べていくうちに、ついにはそちらで新しい発見をしてしまうというお話は非常に面白かった。理論物理ではあまり見られない光景のような気がするがどうだろう。実験では、時として意図しないお客がやってきて、実はそれが重要な発見だったという話をよく聞く。
高校生の質問で、「どうしてニュートリノをやるようになったのか」というようなものがあったと思うが、その時の「ぼくは実はニュートリノには興味がなかったんだよ」などと笑いを交えて回答された梶田先生の姿が非常に印象に残っている。
先生の著書「ニュートリノで探る宇宙と素粒子」を読んでいたので、内容についてはざっと復習する感じになってよかったと思う。知識よりも読書などでは得られない、学生の頃の苦労話やどのようにして発見にたどり着いたのかを、実際に先生の口から語られるのが魅力的だった。
村山先生と梶田先生、お二人の魅力的な講演を目一杯楽しませていただいて本当によかったと思う。偶然にもあの時間にあの場所に足を運んだのは偶然でないような気もしてきた。感謝感謝である。
それにしても、高校生が積極的に質問して素晴らしいなあと感じた。将来あの子らが、先生方の後をついで、何かやってくれることを期待したい。
先生方も質問を受けて、まだわかっていないことについては、「ぜひ君達がこの謎を解き明かしてください」と言われたのが「ナイス回答!」と思わずにはいられなかった。
またこのような機会があるといいなあ。
キャンセル待ちと言われて半ば諦めていたが...。
