先週日曜日、柏の葉カンファレンスホールにて東京大学物性研究所主催の一般講演会が行われた。
講師は物性研究所の押川先生とCaltech&IPMUの大栗先生、物性物理と素粒子物理のコラボレーションと言った感じの一般講演会だ。
この前日、朝日カルチャーセンターで大栗先生の講座があり、先生のブログでもその事について触れられていたのだが、その翌日にも物性研究所の講演会に登壇されるとの情報がブログに書かれていたので、早速申し込んでみた。先週は土日の両日に物理を満喫出来た贅沢な週末だった様に思う。普段は日々の業務に追われ、なかなか学術的な雰囲気に触れられないのだが、最近はCAEに関しても勉強会などでなるべく業務のスキルアップ一辺倒にならない様に、機会を見つけて教養を身につける様にしている。学生時代に物理学を専攻していた事もあり、この歳になってまた勉強し直したい気持ちが再燃している。実は、日常のCAEの業務にも役に立つ様にも考えているので、積極的に趣味として物理や数学の勉強をして行きたい。
さて、講演はまず押川先生の「1次元物質と弦理論」。
「弦理論」と言うのが素粒子物理を想起させるが、ここでは音波や水分子の集団運動としての波などの基礎となる1次元の振動の話である。物質の集団的な振る舞いは非常に複雑だけれども、1次元に限って言えば、「弦の振動」によってすべての性質を知る事が出来ると言う話である。
これには驚いたが、実際に低温における1次元の電子の振動について朝永先生が論文を書いておられたと言う事で、弦の振動だけで様々な性質が理解出来たらしい。ただ、朝永先生は1次元物質と言うのはあくまで仮想的な模型であり、現実の3次元への拡張は難しいと結んでいたそうである。押川先生は実は、これは誤りで朝永先生ほどの方でも未来を見通す事は出来なかったと話された。現在では1次元物質というのは現実の物で、カーボンナノチューブなど朝永-ラッティンジャー液体の理論で理解出来る物質が存在しているとの事だ。
素粒子との関係について、場の量子論の話も出た。弦の振動は1次元の場の量子論の簡単な例らしく、素粒子のコールマンと物性のルーサーが同じ研究をやっていたと言う話もされた。場の量子論は物性物理でも当然の様に昔から使われていると言うイメージがあったが、素粒子の方が主で以前は物性ではあまり使われてなかったらしい。
電子間の相互作用について、弦の振動理論を示しながら分かりやすく解説して頂いた。1次元の相互作用は模型が分かりやすく、それでいて豊富な内容を含んでいるので非常に面白い事が実感出来た。押川先生の最近の研究内容もお話に上がり、興味深かった。
質問では、電子間に引力が働く場合とはどのようなものかと言う事を質問した方がおられたが、なるほど確かにもっともな疑問だと後から気付いた。
続いて大栗先生の「宇宙は超伝導か」。
先生も最初に前置きされたが、自分でも「そりゃどういう意味?」という疑問があった。その後で、それはたとえ話なのだと言う説明を聞き、さらに「どんな比喩なんだろう?」とますます聞き入ってしまう。大栗先生は、この辺のつかみがうまいなーと関心してしまった。
ところで、最初に始まったのは表題とは何の関係もないと思われる「くりこみ」と波動方程式の関係。素粒子での「くりこみ」と言うとやはり朝永、シュウィンガー、ファインマンの理論を想像するが、これはより基本的な理論を「遠目で見た」時にパラメーター化して情報をその中に含めてしまうと言う説明をされた。波動方程式のパラメーターは速さであり、そこに電磁波や岩盤、水と言った情報が一般化されて「くりこまれて」いる。
これは、押川先生の講演を受けて、「くりこみ」がある事で、より基本的な理論の詳細を知らなくても現象を理解出来る構造になっているとの説明であった。素粒子も物性も場の量子論と言った同じ様な原理に従う。
さて、なかなか表題の「宇宙は超伝導か」につながらないのかと思っていたら、今度はヒッグス粒子の話になった。どういう関係があるのだろうと疑問に思いつつも話を聞いていると、ヒッグス粒子の本懐は弱い力を説明するためのもので、それは超伝導のマイスナー効果のアナロジーから来たのだと言う話になった。超伝導のBCS理論を南部先生が素粒子に適用し、超伝導では光子が質量を持つと言う結果を導いた。弱い力でこれを考えるとWやZが質量を持つ事が説明出来るとして、ようやく宇宙と超伝導がつながった! ここに来て、そう言う意味だったのかと思わず感動してしまった。
これだけではなく、さらに続けてPlanckやBICEPの重力波の研究に触れられた。
そこで、また宇宙と物性の関係において、「暗黒物質はトポロジカルな絶縁体」と言う名言を付け加えられた。磁場がなくても量子ホール効果が起こる「量子スピンホール効果」についてさっと触れられたがこれは消化不良。その関係で超伝導の中の磁束のピン留めがトポロジカルな絶縁体と関係がある様な話をされたと思うがこれについては、はっきり理解出来ていない。そのアナロジーで暗黒物質は超伝導状態の空間にピン留めを行うようなトポロジカルな絶縁体ではないかとの結論だった様に思う。
柏の葉キャンパス駅付近はとても綺麗な街で、まさに近未来都市といった雰囲気だった。どことなくつくば学園都市に似ている。
貴重なお話が聞けて、とても充実した講演会だった。