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CAEな日常

一応CAE技術者です。日常の出来事、CAEや趣味の物理、数学などの話題を備忘録として。

数学の驚くべき力

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数学の驚くべき力

先週の話になってしまったが、ちょうど1週間前の日曜に東京大学安田講堂で、WPIシンポジウムの一般講演会が行われた。これは、WPIという世界トップレベルの研究拠点を運営する事業から、一般の方々に科学の最先端研究を知ってもらうとの目的で行われている。この講演会は初めてだったが、本当に世界トップレベルの研究者の4名の方の話を聴くことが出来た。丸一日サイエンス漬けの充実した1日だったと思う。
日立から東京へ出るのは結構きつい。今回は午前中10:00からの開催だったので、バスに乗るため6:00くらいに日立を出発した。だいたい講演会はいつも午後開催のものに参加しているので、久しぶりに早朝から眠い思いでまだ暗い道をバス停まで歩く。日曜の早朝とあってか、高速道路の混雑もなく、東京駅には予定より早く到着した。
バスを降りてからは、大手町の駅に移動して千代田線で湯島駅へ。湯島で下車して本郷キャンパスに向かう。正門から入ると大学のキャンパスに雰囲気が一気に変わり、学生時代に戻ったような懐かしい気持ちになった。こういうアカデミックな雰囲気はやはりいいなと改めて感じた。
さて、安田講堂に到着するとまだ開館までに結構時間があったが、すでに行列が出来ている。みなさん熱心な方が多いのだなと感心してしまった。程なくして扉が開き講堂内へと案内された。安田講堂は初めてであり、その歴史を感じさせる内装には圧倒された。環境は人を作るというが、こういう場所が提供されている大学で学ぶということは、やはりそれなりに学問に対する姿勢も違って来るように感じた。
いよいよ講演会開始。まずは東大の五神総長の挨拶から始まり、WPIディレクターの宇川先生の挨拶が続く。そして午前の講演が始まった。
まず最初は、宇宙線研究所所長の梶田先生の講演である。ノーベル物理学賞受賞者のお話をこうして実際に聴けるのは非常に幸運だと思う。梶田先生の講演は過去二度ほど聴いただろうか。落ち着いた語り口で時折冗談を混ぜて笑いを取る講演が素晴らしく、非常に短い時間に感じられた。内容は、現在準備中の重力波望遠鏡KAGURAについてである。2015年に米国のLIGOがブラックホール合体に起因する重力波の直接観測に成功してから、重力波天文学という新しい分野の時代に入った。日本でも重力波観測の準備が、岐阜県の神岡で行われて来た。今回の講演では残念ながら観測開始の宣言は出来なかったが、2月頃を目処に本格的に観測を開始したいとのことだった。素粒子物理や宇宙線物理は日本も国際的に非常に高い評価を受けていてノーベル賞受賞者も輩出している。今後、ぜひ重力波でもKAGURAの成果を期待したい。余談だが、本シンポジウムのメインである数学に関して、最初に梶田先生が「いきなりで悪いけど、僕の話は数学とはあまり関係ありません、御免なさい」と言って笑いを取っていたのが印象的だった。
続いては、Kavli IPMU機構長の大栗先生。大栗先生の講演は、朝日カルチャーセンターの講座も含めて過去何回か聴講させていただいた。重力から素粒子、超弦理論や数学の話など割と多岐に渡ってお話をされている。「宇宙の数学」というのがキーワードなのだが、これはそのままKavli IPMUの名称で用いられており、まさに数学で宇宙を表現する研究にぴったりだと感じた。
大栗先生の講演内容は、紀元前から現代に至る宇宙の数学とは何かという話題で一貫していた。いつもの軽やかな口調とステージを広く歩き回って話されるアクションも楽しい。ウィグナーの「自然科学における数学の理不尽なまでの有効性」について触れられたが、自分も自然科学が数学によって実にうまく表現されるということには疑問を持っていた。宇宙という対象は、ガリレイの「偽金鑑識官」に「数学の言葉で書かれている」とあり、それは長い間三角形や円などの幾何学を示すものとして認識されて来た。ニュートンやライプニッツが微分積分学を創始すると、宇宙の数学とは微積分の意味になって来たという。実際天体の運動は17世紀から19世紀にかけて解析学によって発展して来た。20世紀になるとアインシュタインが一般相対性理論を提唱し、20世紀の宇宙の数学とは一般相対性理論のことになった。一般相対性理論はビッグバン宇宙論を標準理論として、重力波や膨張宇宙など現代の宇宙論の基礎になっている。では、21世紀、これからの宇宙の数学とは何だろうか。本講演では量子力学と一般相対性理論を統合した量子重力理論が今後の主流となっていくだろうと言われた。量子力学と一般相対性理論の統合はまだ未解決の問題である。大栗先生の専門とする超弦理論は、これを実現する道を拓いているが、今後の数学の発展により新しい宇宙の数学が開拓されてほしいと思う。
お二人の講演が終わったところで午前の部終了、ここでWPIの各拠点のみなさんからそれぞれの研究紹介があった。みなさん非常に宣伝がうまく、やはり日頃からプレゼンをされている方は慣れたものだなと感心した。紹介の後は昼食休憩となった。曇っていて天候は良好とは言えなかったが、講堂前の広場で弁当を食べた。その後少しキャンパス内を散策して講堂に戻る。
午後はまず、東北大学高等研究機構長の小谷先生から。小谷先生はこれまで材料科学高等研究所の所長をされていたのだが、所長を受けることを躊躇されていたとのことだった。常識的に考えて数学者が材料科学研究の長になるというのは確かにあまり考えられないことだろう。会社だったらそんな人事はまずありえないと思う。しかし、数学は材料科学の基礎であり、材料科学の視点のみに留まらない組織づくりが求められるらしい。ここが、アカデミアの組織の違うところなのかなと感じた。特にWPIの研究拠点は世界トップレベルの研究のためのものなので、旧態依然の考え方を良しとしない雰囲気もあるのだろう。所長を引き受けた小谷先生の言葉が印象的だった。「自分のことは信用できないが、数学のことは信用できる」という言葉である。先生は本当に数学の力を信じて問題を解決し、自分の進む道を切り拓いて来られた方なのだなと感じた。
講演内容はミクロとマクロをつなぐ数学ということで、物の数学というテーマで話をされた。ガリバー旅行記の数学者の住む天空の島ラピュタから始まって、最初の科学である知識、そして実験や観測とそれを説明する理論を統合した科学、さらに20世紀には計算科学や情報科学が第3の科学として起こり、21世紀の現代ではデータやAIなどの第4の科学の時代に入っていると述べられた。ここでもウィグナー のことを取り上げ、情報科学と材料科学をAIにより解析し、得られた解答の信頼性や解釈のためには数学が重要となることを述べられた。新しい材料を開発するにしても、物質を構成するミクロな状態がマクロの性質を決めるため、そのミクロな構造を数学を用いて一見無秩序に見えるものから秩序を見出すことも重要である。これをするのに離散幾何解析という手法を用いるらしいが、詳細は語られなかったし、多分聞いてもわからないだろう。でも興味があるので勉強してみたい。最後に紹介されたアインシュタインの言葉「宇宙について最も理解できないことは、宇宙は理解できることだ」がなんか心に残った。
続いて最後の講演は東大ニューロインテリジェンス国際研究機構副機構長の合原先生。合原先生の本は、学生時代に非線形とカオスの関係で読んだことがある。現在はニューラルネットワークとAIの分野で研究されている。以前はニューラルネットワークとAIは別々の研究だったそうで、ニューラルネットワークを研究しているからといって、必ずしもAIのことを知っている訳ではなかったという。それに関連して以前に書いた本で、帯の文句があまりに挑戦的で当時の年配の研究者からえらい怒られたという話は面白かった。講演で紹介された著作は一度読んでみたいと思う。自分も学生時代は非線形物理やカオスに興味があり、そういう研究に進みたいと思ったこともあったが、能力と情熱が足りなかったのが悔やまれる。合原先生の話は生命の数学をテーマに脳の数学と数学の脳ということについて話をされた。脳の活動に関わる非線形方程式は学生時代を思い出して、講義を受けているような気分になった。
合原先生は様々な面白い試みをされているようで、アルファ碁が出てきてから、ペア碁というのを考えてAIによる意思疎通のような試みをしたり、デザイナーさんとコラボでAIによるファッションデザインを試みたりしているとのことである。何の変哲も無いICとかの絵がファッションのデザインになってしまったりする話は面白かった。東京コレクションだかなんだかのファッションショーを東大で開催したとの話があり、東大でファッションショーをやったのは後にも先にもあれだけだろうと話されていたのも印象的だった。色々な意味で合原先生の研究は興味深かったが、最後に病気の治療について発病する前に予知するという話題がなかなか強烈だった。Dynamical Network Biomaker (DNB)とかEarly Warning System (EWS)とか出てきたが詳細はよくわからないが、なんだかすごい話を聴いていると、気分が高揚した。DNAに対してDNBというのが良かったのかな。発病の予防なんかが進んだらすごいだろう。
最後は東大の相原副学長の挨拶で締めくくられた。「文科省の事業はほとんどが失敗ばかりだが、このWPIは珍しく成功した例の一つだ」という言葉には笑ってしまった。
今回の4人の先生方はいずれも世界トップレベルの研究者で、講演を聴いてとても刺激を受けた。普段は会社の業務に追われて日常を過ごしているが、こういう機会を出来るだけ作ってアカデミックな雰囲気に触れ、生活に刺激を与えたいと思う。

初めての安田講堂は圧巻
 

歴史を感じさせる赤門
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HN:
N. Yokoyama
性別:
非公開
自己紹介:
2011年に再就職するも8月には退職し、また出直そうと10月から新しい職場に就職。現在は派遣技術社員として、機械系CAEの業務に従事しています。
とりあえず、ブログはぼちぼちやっていくつもりです。
以前のブログは
http://ameblo.jp/huitre-va/
(2010年12月終了)
(2013年非日常の出来事として再開)

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