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CAEな日常

一応CAE技術者です。日常の出来事、CAEや趣味の物理、数学などの話題を備忘録として。

J-PARC施設公開

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J-PARC施設公開

昨日、東海村の原子力科学研究所で、J-PARCの施設公開があり、無料で見学できた。講演会や実験などもあり、J-PARC構内は多くの見学者で賑わっていた。

先月半ばに梶田隆章先生の記念講演会があり、幸運にもその場に居合わせたことで、講演会を拝聴することができた。その時にJ-PARCの紹介のチラシを渡され、月末に施設公開があると知ってぜひとも参加しようと予定を空けておいた。土曜日だったら会社の勉強会のため参加できないところだったが、これについても本当に運が良かったと思う。

JRで常陸多賀から東海に向かう。施設公開は9:30から始まるのだが、午前中は家でやることもあったし、どちらかというと午後の講演会が目当てだったので、13:00の講演会に間に合うように出発した。東海駅を降りると、イオンのある方向へまっすぐ道を進む。原子力研究機構があり、そこで受付をしてパスポートをもらう。そこからシャトルバスでJ-PARCに移動するのだが、帰りのバスに乗るまでパスポートをなくさないようにとの注意があった。パスポートは番号で管理されており、なくすと帰れなくなるのだ。やはりこの辺は原子力の施設ということで管理が厳しいと実感した。もちろんポケモンGO!は禁止。

シャトルバスで、研究所の奥にあるJ-PARCの施設へ入っていく時はなんだかドキドキした。こういう国立研究所の施設へ入るのは何年ぶりだろう。

到着して、講演会にはしばらく時間があったので展示を見る。やはりニュートリノの実験に関する展示が興味深い。J-PARCで生成したミューニュートリノをカミオカンデに打ち込み、ニュートリノ振動を観測する実験は特に興味があった。カミオカンデはぼくの出身県である岐阜県にあるので、現在住んでいるこの茨城と故郷の岐阜が一緒になって研究を行っているところに、何か感慨深いものがある。
講演会はまず、主幹研究員の中川先生による「中性子で覗く物質と生命をつなぐミクロの世界」と題して、物質と生命の狭間を見るような実験を中性子を使って行うというようなものだった。クマムシを例にとって、水分が少なくなり乾燥すると、クマムシは活動を停止して無代謝状態になるという。これをクリプトビオシスと言って、生と死の境のような状態を示しているそうな。水分を与えてやると、クマムシは再び活動を始める。
ここで対象となるのは、たんぱく質やDNAといった生命分子と呼ばれるものであるが、これらは中性子を用いて、分子の形や動きを見るというのである。中性子の回折現象で形を見、中性子の跳ね返る運動量の変化で動きを観測するようだ。たんぱく質は水に浸かると折りたたまれて固有の立体構造を取る。これが生命機能を発揮する原因となっているらしい。温度を上げてやったりすると、この立体構造がこわれて伸びてしまい、変性たんぱく質となる。変性したたんぱく質はまた温度を下げるなど環境を戻してやると立体構造を回復するのだが、一部うまく再生できなくてアミロイドと呼ばれる異常な状態になってしまうという。これが病気などの原因となると説明された。
さて、たんぱく質から水分を取り除いていくとどうなるか。中性子で水やたんぱく質の動きを見ていると、ガラス化と呼ばれる分子の硬い状態となる。水が少ないとこのガラス化状態から変化しないが、ある程度の水があるとある温度でガラス転移と呼ばれる相転移を起し、立体構造を回復するそうである。この分野は初めて聞く事柄ばかりで興味深かったが、知識がたりないのでもう少し勉強してみたい気がする。
このたんぱく質と水の関係は生命科学の分野だが、食品にも応用できるということであった。中川先生はこの研究から、よりエネルギーの少ない食品の保存方法はないものかと考えておられるらしい。干し芋を例に取られたが、この食品の保存に関してはぼくも面白いと思った。

休憩を挟んで次は、KEKの関口先生による「素粒子原子核研究で探る宇宙の謎」。
もちろんこれはJ-PARCからカミオカンデに打ち出すニュートリノ実験がメイン。宇宙の謎というのは、なぜ宇宙には物質しかないのかという主題で、先月半ばの講演会で村山先生も話された内容だ。違うのは現在研究されているT2Kの魅力的な結果だろう。関口先生の趣旨は、物質と反物質で物理法則が異なるのではないかという予想のもとに、粒子と反粒子の振る舞い、より具体的にはニュートリノと反ニュートリノの振る舞いの違いを見つけるということである。実際、粒子と反粒子が異なる性質を持つのであれば、宇宙初期に対称性が破れて物質だけがわずかに残った理由が説明できるのではないか。
実験ではJ-PARCで発射されるミューニュートリノがニュートリノ振動で電子ニュートリノとしてカミオカンデでどの程度観測されるかを調べる。これを反ニュートリノの場合にもどの程度反電子ニュートリノになるかを調べ、二つに変化の相違があるのかみたいということのようだ。まだ、データ数が少なくて決定的なことは言えないが、どうも電子ニュートリノに変化する割合の方が、反粒子の場合よりも大きい傾向が見られると話された。つまり、ミューニュートリノと反ミューニュートリノではその振る舞いに差があるということで、これをもっと詳しく調べていけば宇宙に物質が出現した謎が解けるのではないかと考えているそうだ。この話はなかなか興奮した。今後、この研究の面白い成果が出ることを期待している。

公演終了後は施設を見学した。最初にハドロン実験施設で新しい実験等を見学、さらにMR加速器施設施設でメインリングの一部を見学させていただいた。これまで本物の加速器を見学する機会はなかったので、この日の施設の見学はかなり印象に残った。もともと実験には興味がなかったが、CERNでの成果や最近の重力波のLIGOなど、次々と興味深い発見が流れてくるので、ぼくが学生だった頃とは全くレベルの違う最新機器が夢のような成果を作り出していることに、最近強く魅かれたのだろう。
最後はニュートリノ実験施設にてT2K実験の装置の一部を見学させていただいた。日本最大級の超伝導システムなどのビームラインは見学できて本当に良かったと思う。

興奮冷めやらぬまま、余韻に浸ってパスポートを返却、帰りのバスで東海駅まで送っていただいた。意外なことから拾ったこのイベント、非常に充実した1日だった。

T2Kの展示。


ニュートリノビームライン。


パスポート、記念にもらいたかった...(^^;)。
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N. Yokoyama
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非公開
自己紹介:
2011年に再就職するも8月には退職し、また出直そうと10月から新しい職場に就職。現在は派遣技術社員として、機械系CAEの業務に従事しています。
とりあえず、ブログはぼちぼちやっていくつもりです。
以前のブログは
http://ameblo.jp/huitre-va/
(2010年12月終了)
(2013年非日常の出来事として再開)

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