もう、先々週のことになってしまうが、22日の日曜は東大の伊藤謝恩ホールで、「起源への問い」と題する講演会があった。昨日書こうと思っていたが、最近書くのが面倒になってしまっている。2週間も経っているので、かなり忘れてしまっているが、とりあえず覚えている部分だけでも記しておきたい。
この講演会はKavli IPMUと東工大ELSIが合同で主催する一般向けの講演会で、最初から人気が予想されたため、参加者は抽選で選ばれる。講演会の情報は、いつもブログでお世話になっているとね日記のとねさんから誘われた。とねさんは残念ながら参加できなかったらしいが、ぼくは運良く抽選に当たったというわけである。まあ、無理だろうなとは思っていたが、予想外の出来事に非常に嬉しかった。
今回の講演者は、Kavli IPMUとCaltechの教授である大栗先生、東工大ELSIの所長である廣瀬先生、そして人文科学で哲学の教授の納富先生のお三方である。ぼくが応募を決めたのは、やはり大栗先生のお話を聴きたかったからだが、蓋を開けてみるとお二人のお話も非常に興味深い内容だった。
プログラムは以下のとおり
物理学からみた宇宙の起源
大栗博司 東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構主任研究員&カリフォルニア工科大学教授
現在から過去を知る-45億年の時間旅行
廣瀬敬 東京工業大学地球生命研究所長
古代ギリシャ哲学から問う起源
納富信留 東京大学大学院人文社会系研究科教授
起源を問うとはどういうことか
鼎談
最初に本日の目的であった大栗先生の講演を聴く。まず、ゴーギャンの有名な絵を示された。
「我々はどこから来たのか、我々は何者か、我々はどこに行くのか」
人間は知的好奇心によって、様々な問いかけを行って来た。それが現在の文明を作り上げているもとになっていると思うのだが、今は役に立たないことでも、それを考えることで将来大きな影響を与えることができる。
科学革命のきっかけを作ったのはガリレイだが、これも人間の周りの環境に対する問いかけが深い思考を通して発展して来たものではないか。
大栗先生は「起源を問う」時の「起源」について二つの意味があると言われた。
一つは歴史を遡ること、もう一つはそれを構成する原理の意味である。この二つはほぼ重なっており、時間を遡ることでより本質的な何かを探すことに結びついている。
さて、「夜空はなぜ暗いのか」という疑問が提示された。これは考えてみると、それほど自明なことではない。オルバースのパラドックスについてはぼくも知識として知っていたが、確かにいくら遠くの光が弱いとは言え、地球に全ての星の光が届くならいつも明るいはずである。この問いに対して、作家のエドガー・アラン・ポーが解答を示唆していたというのは初めて知った。ポーは「夜空が暗いのは、まだ星から届いていない光がある」と記していたらしい。宇宙はまだ星の光で満たされるほど星の数があるのでも時間が経っているのでもないということだろうか。
大栗先生は「夜空が暗いのは宇宙に始まりがあったから」と話された。
アインシュタインによって、一般相対性理論が提唱され、ハッブルによって宇宙が膨張していることが観測されると、ビッグバン宇宙論という一つの標準的な宇宙の模型が出来上がってきた。ビッグバンというのは、日本と欧米では意味が違う話もされた。以前に朝日カルチャーセンターの講座で大栗先生と林先生のお話でぼくも質問したことだったので、よく覚えている。日本では無からの宇宙開闢の内容を指すことが多いが、欧米では宇宙誕生後からまだ時間があまり経っていない高温高密度状態の宇宙を意味する。最近ではビッグバンというと、何らかの原因で宇宙が誕生し、その初期の状態のことを指すようになって来たという話で、日本でもそういう意味になりつつあるようだ。
現在ではビッグバン理論を裏付ける観測事実も多く出ており、宇宙誕生の3分後の水素とヘリウムの割合が12:1であるとか、誕生から約40万年後に宇宙の晴れ上がりがあり、原子がバラバラの状態で存在する。これが1億年くらい続く暗黒時代で、その間に散らばった原子が重力で引き合い、その分布のムラから何か構造ができて星、銀河へと形成されていく。
宇宙誕生の極めて初期の頃は、クォーク・グルーオンプラズマと呼ばれる状態だったというお話、宇宙論は素粒子論と密接に結びついていき、現在の標準模型では宇宙の5%しか説明できていないお話など興味深い内容が続いた。
最後に、宇宙がこれほど長生きなのは重力が弱いからだという話をされたと思う。重力がもっと弱かったら星はできなかったし、強ければみんなブラックホールになっていた。これに関係して人間原理の話などもされたが、詳細まで追いかけられなかった。
この後は廣瀬先生の講演。以前は地球物理も少し学んでいて、地磁気などにも興味を持っていたので、今回の地球の歴史のようなことはなかなか面白かったと思う。生命の起源は38億年前と言われるようだが、実際は正確にはわからないとのことだ。地球の年代は45億年とも46億年とも言われているが、地球が出来た頃の石は実は地球上には存在しないらしい。これは隕石の年齢からわかるとのことだ。過去の地球を知ることにおいて、プレートテクトニクスという理論が非常に重要な役割を果たすらしい。この理論が画期的なのは、将来が予測できることと過去に遡れるということだそうだ。現在、大西洋の中心から新しいプレートが生成されており、大西洋は徐々に広がっているとのことだ。プレートというのは板のことで、地球は8つの板からなる。このプレートの動きに対して、時間を戻してみると、過去には今の大陸が一つになった巨大な「パンゲア」という大陸に帰着するという。そういえば、中学の頃にも「大陸移動説」という名前でそういう話を聞いたことを思い出した。
さて、ではプレートの始まりはどのようにしてわかるのか。プレートが動くことに関して、海で冷やされて重くなるため沈み込むという。プレートが動くためには冷やすための海が必要なのだそうだ。そして、プレートが沈み込む時に陸側に削りかすが残る。この削りかすの地層の年代を測定すればプレートの始まりがわかるという話だった。それに付随して、海中で溶岩が固まると組織が枕状の特殊な形になるとの説明もされたが、残念ながらあまりよく理解していない。
地球が生まれた時の地層は地球上には存在しないので、その年代はわからないが、現在知られている最古の地層は40億年前のもので、表層の記録は38億年前とのことである。昔の表層は削られてしまうので、現在表に見えている地層は当時は地下内部にあったものが削られて出て来たものだろう。表層の記録はあまり古いものは見ることができないため38億年なのだ。
この後は、地球環境と生命に関する話になったが、詳細をきちんと覚えていないのが悔やまれる。まあ、自分にとっては初めて聴く話も多く、理解が追いつかなかったためなのだが...。最近は、アルマ望遠鏡などの観測で、微惑星の形成過程が観測によってわかるようになって来た。その星の個性、環境を決めるのはマグマオーシャンと呼ばれるものらしい。大きな衝突が起こって惑星が形成された時、深部での溶融が起こり、海水の80倍もの水ができて、原始の地殻と生命を作る原因となったという話だったと思う。地球のコアは鉄より軽く水素が入っていると言われている。これが水と関係した話だったかな...。
生命のことに関しては、月の成分に言及されて、月は斜長石からできているという話をされたと思う。この時、ウサギの形の暗いところと明るいところは違う成分だとかなんとかという話もされたようだったが、覚えていない...。特徴的なのは、この石が地球にはないものでカリウム、リンを含んだKREEP岩と呼ばれるマグマオーシャンの最終残液だということだったと思う。リンは、生命の骨格をなす重要な成分であるが、不思議なことに自然界にはほとんど存在しない。またカリウムに関しても、生命を構成するカリウムのナトリウムに対する比の大きさに比べて、自然界では圧倒的にナトリウムが多い。この生物に非常に重要なリンとカリウムを豊富に含んだKREEP岩が、生命の誕生に関係するのではないかというお話であった。少し生命の起源に関する内容が少なく感じたのは、自分の知識不足のせいだったかもしれないが、もう少し色々と聴けたらよかったかもしれない。
この後は納富先生。またちょっと疲れたので、続きは明日にでも書こう。