今日は午後から、東京大学宇宙線研究所とKavli IPMUの合同一般講演会があり、予約の抽選で当選したので、聴講して来た。毎年この時期になると、アミュゼ柏のクリスタルホールで、一般講演会が行われているように思う。確か去年も聴講したと思うが、今回も運良く当選することが出来た、感謝。
今回のテーマは、「宇宙の始まりを考える」と題して、原始ブラックホールとインフレーション宇宙の内容を講演された。ちょうど数日前に、ブラックホールが初めて観測されたという衝撃的なニュースがあり、このタイミングでブラックホールに関する話を聴くことが出来るのが非常に嬉しかった。
今回も常磐線で出発、去年より30分開演が早いようで9:00過ぎには家を出て、柏へ向かう。到着すると、開演時間15分くらい前だったが、もう結構並んでいた。皆さん熱心な方が多いようだ。
開演時間より10分早く受付が開始され、受付を済ませて会場に入る。今日はもちろん満席である。
最初に、宇宙線研究所所長の梶田先生からご挨拶があり、IPMUと宇宙線研究所が柏にキャンパスを移してから、柏の皆さんにどんなことをやっているか知ってもらおうと、こうした一般講演会を始めたとの説明があった。ここで、毎年春と秋の2回、柏でこの合同一般講演会をやっていると紹介された。そういえば、去年もこの時期だったので、春の一般講演会に当選したのだったのかと思った。こうした講演会は、普段アカデミックなことに触れる機会が少ない自分にとっては、非常に刺激的であり、日常生活の重要な糧になっている。今後も時間が取れれば、聴講したい。
さて、今日の最初の講演は、宇宙線研究所教授、川崎雅裕先生による「原始ブラックホール」。
ちょうど先日のブラックホール観測結果の画像を表紙で示され、これが超巨大ブラックホールであることから、原始ブラックホールのお話に入って行く。今回観測されたブラックホールは太陽の65億倍というとんでもない質量を持つ。ちょっと自分では想像が追いつかないスケールだ。
ところで、原始ブラックホールは、宇宙初期の密度揺らぎで大きな密度を持った部分から発生するということで、1971年にホーキング博士によって提唱されたとのことだ。これは通常の星の進化の最終過程で作られるブラックホールが、太陽の数倍程度なのに対し、軽いものからかなり重いものまで、様々な質量のブラックホールが作られるという。
また4年前に重力波観測で、LIGOが初めてブラックホールが合体した時の重力波を検出することに成功し、ニュースとなったが、この時のブラックホールが太陽の30倍程度の質量だった。こうした大きな質量のブラックホールは通常の過程とは異なるもので、原始ブラックホールではないかと考えられている。原始ブラックホールの重要性は、それが暗黒物質かもしれないという仮説にも繋がっている。原始ブラックホールと暗黒物質の共通点として、
・長寿命であり安定
・相互作用が弱い
・冷たい
といったことを挙げられ、暗黒物質の有力な候補となっていると説明された。
原始ブラックホールが暗黒物質になりうるということを、マイクロレンジングという効果を利用して、観測で見つけようということが行われているとのこと。すばる望遠鏡での試みでは見つからなかったようで、その結果、現状では10^17〜10^22g程度の質量のものが候補に絞られている。
原始ブラックホールを作る初期宇宙の密度揺らぎについては、宇宙の構造を作ったと考えられているインフレーションではないかと考えているという話だった。ここで、COBE、WMAP、PLANCKの一連のデータから、インフレーションの存在について説明され、原始ブラックホールとLIGOで観測されたブラックホールの両方を説明できる、ダブルインフレーションなる仮説も披露された。
原始ブラックホールは様々な意味で興味深い対象であり、今後の発展が楽しみだ。
続いて、KavliIPMU准教授、菅井肇先生による「宇宙が生まれた時」。
原始重力波が残してくれたプレゼントということで、宇宙開闢直後の宇宙を知りたいという内容だった。4年前にLIGOで重力波が観測されたが、菅井先生の目標は、宇宙開闢直後の原始重力波というものについて知りたいという話だ。
最初に宇宙は膨張するという話をされ、遠くを見ることは昔を見ることだという話をされた。これは光の速さが有限であることに起因するが、この光の速度が無限大でないという観測の話から始められた。銀河までの距離や、銀河の動きをどのように知るかという内容の説明をされ、観測によって現在では宇宙が膨張していることがわかっている。その後、遠くを見て行くことにより昔に遡り、100億年以上前について、宇宙誕生後4億年にはすでに銀河が作られていた。さらにその前は、暗黒時代と呼ばれる何もない時代らしい。そして光の観測可能な宇宙誕生後38万年後には宇宙背景放射が、その証拠として観測されている。それ以前になると、光は届かないため、初期に起きたインフレーションを実証しようとすると、インフレーション時に発生する原始重力波をとらえることになる。原始重力波は、宇宙背景放射の偏光と合わせて見るとわかるらしい。
こうした原始重力波を観測するために、現在Lite BIRD衛星というプロジェクトが2027年の打ち上げに向けて動いているとのこと。原始重力波の特徴や重要性を説明しながら、Lite BIRD衛星に関するプロジェクトの内容も説明された。原始重力波の観測により、ビッグバン以前の宇宙に迫ることができるようになるとは、非常にワクワクする。自分が学生時代には夢物語だったことが、一つひとつ実現されて行くのを聴くと、やはり21世紀になったのだと感じる内容だった。
最後に、「宇宙が誕生時に震えていたという最初の鼓動を感じたい」という長谷川雅也先生の言葉を紹介して講演を終わられた。
20分の休憩の後、その時間で出た質問なども含め、最後のクロストーク。
両先生が互いに質問し合い、回答されるという形式で始まった。ここで印象的だったのは、川崎先生が最初工学部に進み、後から物理に転身されたということと、そのことで1年遅れ、ちょうど佐藤勝彦先生の最初の学生になったことだった。また、菅井先生の印象的なことは、実験の先生はなかなか仕事と私生活のバランスが難しいということで、ブラック企業にあるような大変な思いをされているなあと感じたことである。なんか物理とは直接関係ない話も結構あったが、先生方の対談は非常に面白かった。
会場の皆さんの質問もかなり多くて、熱心に聴いている人が多いなあと感じた。なかなか質問できないが、機会があったらしてみたい。後、やはり移動に時間がかかるので、先生に質問に行きたいが、帰るのが遅くなってしまうので躊躇する。そういえば、会場からの質問でビッグバンの定義についてインフレーションと絡めたものがあったが、以前に朝日カルチャーセンターで似たような質問を自分がしたので、やはり同じような疑問を持っている人はいるのだと感じた。
ちなみに、ビッグバンはインフレーション後の熱い宇宙を示すのが正解なのだろう。今後はそちらに統一されるようだ。
帰りは、電車の時間がかなりあったので、柏駅のBecker'sで夕食。久しぶりにハンバーガーを店で食べた。今日も非常に有意義な講演会だったと思う。